ファシズムとは何か(What is Fascism?, 1944)
ジョージ・オーウェル 著
H.Tsubota 訳
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私たちの時代において答えが出ていない問題のうち、おそらくもっとも重要なものは「ファシズムとは何か?」というものだろう。最近アメリカでおこなわれた社会調査の一つではこの質問が百人のさまざまな人間にされたが、得られた答えは「純粋な民主主義」から「純粋な悪魔崇拝」まで幅広いものだった……続きを読む
ジョージ・オーウェルによる「What is Fascism?」の日本語訳。
ファシズムという言葉はイタリアのファシスト党に由来するが、オーウェルがこの評論を書いた1944年には既にこの組織を離れた一般的な非難の言葉として使われていたようだ。オーウェルはこの「ファシズム」という言葉が具体的に何を指しているのかについてこの評論で考察している。
私たちの時代において答えが出ていない問題のうち、おそらくもっとも重要なものは「ファシズムとは何か?」というものだろう。(ジョージ・オーウェル, "ファシズムとは何か")
オーウェルはこの言葉が使われる対象を列挙していく。
例えば活字媒体では保守主義者、社会主義者、共産主義者、トロツキスト、カトリック、戦争反対者、戦争支持者、ナショナリストに対してこの言葉が使われているという。さらに日常的会話では多くの政治組織、小店の店主、体罰、狐狩り、闘牛、キップリング、ガンジー、蒋介石、同性愛者、テレビ番組、ユースホステル、占星術、女性、犬、そして「その他の私のあずかり知らぬもろもろ」にこの言葉が使われているのだとオーウェルは書く。
報道をよく調べれば、過去十年の間にファシストと非難されたことがない人々は……それが政党でも、その他の組織でも……ほとんどいないことに気がつくだろう。(ジョージ・オーウェル, "ファシズムとは何か")
使われ方からして「ファシズム」という言葉がほとんど完全に意味のないものであることがわかるだろう。(ジョージ・オーウェル, "ファシズムとは何か")
しかしそれでもいくらかの意味がその言葉には込められているとオーウェルは書く。
彼らが「ファシズム」という言葉で表したいものはおおざっぱに言えば何か残酷なもの、不公正で尊大で蒙昧で、反自由主義、反労働者階級的なものなのだ。(ジョージ・オーウェル, "ファシズムとは何か")
端的に言えばそれは「bully(弱い者いじめをする者・いじめっ子)」という意味なのだ。
ほとんどのイギリスの人間は「ファシスト」の同義語が「弱い者いじめをする者」であると言われて納得するだろう。これこそがこの乱用されている言葉の意味の定義にもっとも近いものなのだ。(ジョージ・オーウェル, "ファシズムとは何か")
言葉から意味が薄れていって感情を表す叫び声になることへの警戒で評論が終えられているところは「ニュースピーク」を生み出したオーウェルらしい。