ここ半年、株価が上がり続け今では乱高下している日本でこのタイミングでこういうものを読んでおくのも悪くないのではないだろうかと思って。
2008年の世界同時金融危機の裏側でウォール街に空売りを仕掛けた3つのヘッジファンドを描いたノンフィクション。
著者は80年代に「ライアーズ・ポーカー」でウォール街の内幕を暴露して有名になった人物だ。最近だとむしろ「マネー・ボール」でセイバーメトリクスを有名にした人と言った方がわかりやすいかもしれない。
サブプライムローンで何が問題だったかと言えば信用度が低い借り手の住宅ローンを材料に金融派生商品を作り、それを材料にまた金融派生商品を作りを繰り返しているうちに誰もその商品の実際の価値がわからなくなった・・というのが一般的な理解だと思うんだけど、技術的な部分についてはこの本を読んでも細かいところまではわからなくて、むしろ藤沢数希による解説部分の方がわかりやすい。引用すると、
住宅ローンというのは住宅を担保にいれて金融会社からお金を借りることである。するとお金を貸している債権者には毎月の返済と金利が入ってくる。このキャッシュフローをごっそりまとめて切り刻んだりすれば、いろいろな面白い住宅ローン債券が作れる。これが住宅ローン担保証券(Mortage-Backed Securities MBS)である。さらにMBSを束ねて切り刻むとCDO(Collateralized Debt Obligation)が作られる。ちなみにサブプライムというのはアメリカの貧乏人のための住宅ローンだ。サブプライムから大量のMBSやCDOが作られたのだ。
だいぶわかった気になるけどまだよくわからない所も多い。MBSとCDOがどう違うのか、とかね。
で、ともかくこの劣悪なCDOを売っていたのがウォール街の名だたる証券会社だった。
その一方でこれが時限爆弾だと気づいた人間もいて、それがこの本の主人公たちだ。元医者で隻眼のアスペルガー症候群の男が経営するサイオン・キャピタル、3人の若者が経営するコーンウォール、モルガン・スタンレー傘下のフロントポイント。
彼らが空売りに使ったのがCDSという債券に対する保険商品だ。これも藤沢数希の解説から引用すると
たとえばトヨタ自動車の社債を保有している人がいるとしよう。トヨタ自動車が倒産したら、この社債のかなりの部分が吹き飛んでしまう。それで100円の社債で倒産して30円しか返ってこなかったとする。ここでこの社債のCDSを買っておけばそれを売った人から損失分の70円を貰える。そのかわりCDSを買った人は、最初に決められたお金をこの保険料(プレミアム)としてCDSを売った人に払い続けなければいけない。たとえば年間1%とかである。
金融商品やリスク分析についての前知識がないとこの小説だけで全てを理解するのは難しいだろう。むしろ強欲で暗愚な巨大組織を出し抜いた賢明な少数派を描いたエンターティメントとして楽しんだ方がいいと思う。
とは言えノンフィクションらしくそこから教訓を読み取ることも可能だ。例えば
- 小難しい言葉で人を煙に巻く人間は自分で何を言っているのか理解していない。もしジャーゴンまじりの説得が始まったら用心すべきだ。
- 格付け会社が常に正しいとは限らない。権威によるお墨付きは見当違いなことが往々にしてある。