機械との競争
以前どこかで引用されていて書名(Rage Against the Machineのもじり?)が記憶に残っていた「Race Against The Machine」の訳がでたのでさっそく読んでみた。200ページ弱と短いのですぐに読み終われる。
内容は基本的にはアメリカ国内の話だけれど日本に引き写しても通じる部分は多い。現状分析ではいろいろな統計資料を引用していてなかなか面白かった。
この本にもあるように経済成長に対する技術革新の影響について書かれた一般書って少ない気がする(もちろん産業革命や内的成長理論について書かれた専門書はたくさんあるんだろうけど)。ポール・ローマーの論文とか読めばいいのだろうか。
以下、内容の簡単なまとめ
第1章 テクノロジーが雇用と経済に与える影響
リーマン・ショックから数年、GDPや企業収益が回復したにもかかわらず雇用が回復しない状況のアメリカ。これは景気循環や停滞ではなく、技術革新による雇用喪失が要因なのではないかと問題提起がされる。
第2章 チェス盤の残り半分にさしかかった技術と人間
「ムーアの法則」によれば18ヶ月でCPUの集積度は倍増する。一方で「チェス盤の法則」では指数関数的な増加が最初はわずかな増加にしか見えないのに、あるところから(例えばチェス盤の半分、232に米粒が増えたところから)想像を超えた増加を見せることを教えてくれる。
本書によるとアメリカ商務省統計に「情報技術」の項目が追加されたのは1958年のことなのだそうだ。そこから18ヶ月ごとの倍増を32回繰り返すと(つまりチェス盤の半分に到達すると)2006年になる。自動車の自動運転やIBMのワトソンを例に今後、技術が担う領域は想像を超えて大きくなるだろうと著者は主張する。
第3章 創造的破壊ー加速するテクノロジー、消えゆく仕事
人々が懸命に働くから経済は成長するのではない、よりスマートに働くから成長するのだ
このロバート・ソローの言葉を引いて技術の発展自体は問題ではないと著者はいう。問題はそれがあまりに急激に進んでいるために多くの人間が付いていけなくなっていることなのだ。全体としては成長しているにも関わらず、中間層はむしろ衰退していることが問題なのだ(再分配という大きな問題があるが本書では深くは取り上げていない)。
第4章 では、どうすればいいのか
産業革命期に蒸気機関と力比べをして死んだというジョン・ヘンリーの伝説を引用して著者は機械との競争は無意味だと主張する。もちろんそれは機械に降伏しろということではなく、機械を使役しろということだ。章の後半では基礎研究や教育への投資、高技能移民の受け入れ、規制緩和といった19のマクロな政策の提案をしている。
第5章 結論ーデジタルフロンティア
かなり厳しい話をしてきたけれど基本的には悲観することはないんだ、という結論の章。技術革新によって第三世界を含めた全世界ではものごとはよりよくなっているし、既存技術の組み合わせによるイノベーションの可能性は開かれている。なにしろ組み合わせ爆発は指数関数的な成長を上回るのだから、というのが著者の主張のようだ。