リトル・ブラザー
著者のコリイ・ドクトロウはブロガー兼作家で、ネット時代における著作権の新たなあり方を提唱する活動家でもある。また自身の作品を出版と同時にクリエイティブコモンズライセンスで公開するという挑戦的な試みを行っていることでも有名だ。この「リトル・ブラザー」も英語版は著者によってウェブ上に公開されている。
ストーリーはテロリストによるサンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジの爆破から始まる。17歳の主人公は騒動のさなか、仲間とともに何者かに拉致され、過酷な拷問を受ける。すぐに明らかになるのだがそれは国土安全保障省の部隊による無差別な取り締まりだった。
拷問のことを口外しない、調査には自主的に協力した、という書類にサインすることで解放された主人公だが仲間の一人は依然として捕われたまま。主人公はインターネット上に独自の匿名ネットワークを築き、反撃に乗り出す。
物語は9.11後のアメリカの状況を踏まえている。9.11後のアメリカはかつて無いほど抑圧的になり、それに対する反発が本書のモチベーションになっていると考えていいだろう。実際、法的な手続きなく一般市民がテロ容疑で長期間拘束されるという事件がこの時期に多発していたのだ。
参照:ニューヨーク・タイムズ(米) 2010年11月17日 拷問の責任の取り方
著者の主張は「もしテロを恐れて法をないがしろにすればそれはテロリストの勝利だ」ということだ。著者は書く。
「テロリズムの目的はぼくたちをおびえさせることじゃないんですか?だから恐怖主義(テロリズム)っていうんですよね?」
...(略)...
「それなら、ぼくたちはテロリストの思う壷にはまっているんじゃありませんか?ぼくたちがおびえて、監視カメラを教室とかにとりつけたら、彼らが勝ったことになりませんか?」
そして本書には繰り返し権利章典(合衆国憲法修正第1条から修正第10条)が引用される。これは非常にアメリカ的な一面だ。
理念を口にして自らの手によってそれを実現しようとする10代を描く本作は日本語版の帯にある通り「痛快な青春小説(by 津田大介)」になっていると言えるだろう。
関連:
【日本語訳】メイカーズ(Makers)
コリイ・ドクトロウ「メイカーズ」のEpubファイル、Kindle用ファイルを公開
【日本語訳】一九八四年(Nineteen Eighty-Four)