最近SFをよく読んでいるので、そのなかから
「天の光は全て星」
「虎よ、虎よ!」
「ニューロマンサー」
の3冊をレビュー。


---------------以下、ややネタばれ---------------

天の光は全て星(The light in the sky are stars, 1953年)
天の光はすべて星 (ハヤカワ文庫 SF フ 1-4)
フレドリック・ブラウン 訳:田中融二 ★★☆
老境にさしかかった主人公のロケットエンジニアは宇宙狂いだ。いつかは他の恒星系に人類が進出することを確信している。彼はTVで見た木星探査を公約に掲げる上院議員候補に近づき、自ら宇宙開発を先導しようと試みる。

主人公は宇宙開発に予算をまわさない議会に幻滅し、犯罪まがいの方法で上院議員を味方につけて宇宙開発を進めようとする。どこの国でも科学予算に対する苦労は同じらしい。プラネテスの元ネタっぽい。

虎よ、虎よ!(Tiger! Tiger! 1956年)
虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)
アルフレッド・ベスター 訳:中田耕治 ★☆☆
敵国に攻撃され漂流する宇宙船に1人閉じ込められた主人公。5ヶ月もの漂流の末、同胞の船に発見されるがでその船は彼を見捨て飛び去ってしまう。圧倒的な怒りに突き動かされ、彼はその船<ヴォーガ>に復讐するために生きのびようと行動を開始する。

前半は他愛もない宇宙・冒険活劇といった感じだが、ラスト30ページから突如として精神的、社会批評的な内容になってくる。特に故障したバーテンダーロボットとの対話が暗示的。モンテクリスト伯、ナチスのホロコースト、核兵器開発などを連想させる内容。

ニューロマンサー(Neuromancer, 1984年)
ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
ウィリアム・ギブスン 訳:黒丸尚 ★★☆
神経を焼かれ電脳世界に接続できなくなったハッカー。無法地帯「千葉」で無為に過ごす彼の前にサイボーグ化した肉体を持つ女が現れる。彼らのチームに加わり仕事をすれば引き換えに神経を元にもどせるという。謎の雇い主「冬寂」の依頼に従い、主人公は衛星軌道上の都市にむかう。

「記憶屋ジョニィ(映画「JM」)」と同じ世界の話。AKIRA、攻殻機動隊、マトリックスなど後のSFに対する影響も大きい作品。技術進化の先の神秘主義/精神的進化というのはサイバーパンクの類型ともいえるかもしれない。訳が独特で少しわかりづらい。


人間の進化というのはSFでよく出てくるテーマだ。50年代に書かれた「天の光は全て星」「虎よ、虎よ!」ではそれは技術(あるいは精神の進化)による「行動圏の拡大」によって表現される。そういった時代背景が、アポロ計画へと続いて行くのだろう。
一方で84年のニューロマンサーでは「精神世界・情報世界の拡大」こそが進化とみなされている。その後のインターネットの隆盛は既知の通り。

関連: 名作SFを読んでみた。