最近、個人的にSFブームが到来。ということで何冊か有名どころのSFをレビューしてみた。
---------------以下、ややネタばれ---------------
1984年(Nineteen Eighty-Four, 1948年)
ジョージ・オーウェル 訳:新庄哲夫
1984年、世界はオセアニア、ユーラシア、イースタシアの3つの超大国に分割され、各国家では厳重な思想統制がおこなわれている。オセアニアのロンドンに住む主人公はそのような体制に疑問を感じはじめ、反体制に傾いてゆくが・・。
話が暗くて長い。
「ニュースピーク」「二重思考」「イングソック」なんかは皮肉が効いている。
ラストが醜悪で秀逸。
幼年期の終わり(Childhood's End, 1953年)
アーサー・C・クラーク 訳:福島正実
人類が宇宙に進出しようとするまさにその時、地球外知的生命体の操る巨大宇宙船が地球上空に突如として現れる。それから数十年、"オーバーロード"と呼ばれる彼らの庇護のもとで人類は戦争や貧困を排し史上最高の繁栄を謳歌する。そして時は満ち、"オーバーロード"の目的と人類の未来が明らかになる。
翻訳が良く読みやすい。
ありがちなスペースドラマかと思いきやラストがグロテスクで面白い。
出版時期を考えると社会主義のメタファー?とも考えられる。
ダイヤモンド・エイジ(The Diamond age, 1995年)
ニール・スティーヴンスン 訳:日暮 雅通
近未来、人類はダイヤモンドすら合成しうる物質練成技術を手に入れ、世界はナノマシンで満たされていた。物質練成技術者ハックワースはある貴族の孫娘のために画期的な教育用読本を作成する。しかしその不正コピーがスラムに暮らす少女ネルの手に渡ったことで事態は思わぬ方向へと進んでいく。
非常に面白かった。
ナノマシン、物質練成、社会構造のディテールの作りこみが愉快。
「高等教育の量産」と「量産不可能な愛情」がテーマのようだ。
<まとめ>
SFの主要なテーマのひとつは「全体vs個」だと思う。
「1984年」、「幼年期の終わり」の2作は明らかに社会主義を意識している。「1984年」では1党独裁と思想統制を取り上げているし、「幼年期の終わり」は進化の到達点としての個の消失をグロテスクに描いている。
一方、ソビエト崩壊後に書かれた「ダイヤモンド・エイジ」では資本主義国家間のパワーゲームや、民族主義、貧困、教育機会の平等といった今日的なテーマが描かれる。
ここでは「全体vs個」の問題は政治問題というよりはサイケデリックな精神世界の問題として扱われているようだ。
おわり。
関連: 名作SFを読んでみた。 2