H.G.ウェルズ 著
H.Tsubota 訳
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あらすじ
1897年、イギリスで一人の男が謎の昏睡状態に陥る。眠り続けた男が目を覚ますとそこは二百年後のロンドンだった。しかも、いくつかの偶然と複利の力によって男の財産は莫大な額にまで増え、男は世界の所有者として目覚めたのだった。世界を支配する評議会、革命家オストログ、過酷な労働にあえぐ労働者たちの争いに男は巻き込まれていく。
訳者あとがき
『眠れる者の目覚め』(The Sleeper Awakes)はH.G.ウェルズによるディストピア小説で、1899年に出版された『眠れる者が目覚める時』(When the Sleeper Wakes)の改訂版として1910年に出版された。
西暦2100年のロンドンで目覚めた主人公が、享楽と退廃と奴隷的労働が渦巻くその奇妙な世界を探訪し、そこで繰り広げられる革命の争いに巻き込まれていく。
ウェルズの想像する未来の発明品や飛行機の形は(その一部が実現している)現代から見れば奇妙にも見えるが、そこで描かれる社会構造はある意味で普遍的なもので、それはカースト的階級社会、快楽主義的な上級民と奴隷労働にあえぐ労働者だ。『一九八四年』で知られるジョージ・オーウェルはオルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』を、いわば『眠れる者の目覚め』のパロディーである、と評している [1]。
同時にまたこの小説は典型的なエンターテイメント小説でもある。主人公はいわば異世界に転生してそこで「世界の主人」となり、(当時まだ実現していなかった)飛行機での飛行が刺激的に描かれ、ヒロインとの交流や革命闘争での主人公の活躍が繰り広げられる。『宇宙戦争』や『モロー博士の島』に比べると結末はあっけないものかもしれないが、科学的・哲学的・社会学的な考察とエンターテイメントの融合という意味では実にウェルズらしい作品であるように思う。